次の日、ルークはベッドの上で目を覚ました。自分がどこにいるのか分からなかった。
見慣れない部屋を見回して、やっと記憶が戻ってきた。隣のベッドには母が寝ていたはずだが、もう起きたのか、姿がなかった。トロアスの家と比べると、何と狭くて飾り気のない部屋だろう。母さんが子供のころ母親とともに過ごした部屋だという。
しっくいで固められた四方の壁には隣の居間へと続くドアと小さな窓が二つあるだけだ。陶器のランプが枕元に置かれている。古い家具が幾つか並べられていた。祖母がなくなってからそのままになっているらしい機織り機があり、その周りに幾つか置いてある籠の中には紡ぎかけの糸や布が入っている。夏場はこの部屋で眠るが、冬場の寒さが厳しい時は、調理場を兼ねた暖炉のある居間で家族そろって眠るのだという。
隣の居間ではダイナが質素な朝食を整えていた。たまねぎと平豆を煮たスープとパンとチーズだけだ。おじいさんのジョナサンは嬉しそうにその姿を見つめている。起きてきたルークにジョナサンは「おはよう」と声をかけた。母のダイナも気づいて「おはよう」と笑顔で言った。「おっはー」とわざとたどたどしいヘブライ語で答えてから食卓に着いたルークに、ジョナサンは嬉しそうに言う。
「今日は家畜の世話の仕方を教えるからな。鍛冶屋の仕事はその後だ。だが、まずは腹ごしらえだ。お前は体が細いからうんと食え。三年間で見違えるような男にして見せるぞ。覚悟しておけよ。鍛冶屋の仕事はきついぞ。音を上げるんじゃないぞ」
ダイナはダイナは食卓に並ぶ二人の姿を見て、眼を閉じ無言で祈った。
「ありがとう神様」
「ありがとう神様」
ジョナサンは食卓に着いた三人を代表して祈った。
「天地の主エホバよ。あなただけが真の神です。今日も我らを守りたまえ。日々の糧に感謝します」
「天地の主エホバよ。あなただけが真の神です。今日も我らを守りたまえ。日々の糧に感謝します」
朝の初めの仕事は家畜の世話と餌やりだ。この家には荷運び用のロバが一頭と、乳搾り用のヤギが二頭いる。以前は羊も数頭飼っていたが、ジョナサンが一人になってからは手放した。ヤギは毎日のように近所の子どもが丘の中腹の牧草地に連れて行ってくれる。朝一番の仕事はヤギの乳搾りだ。おじいさんが模範を示す。
「やってみろ」
ルークは真似をしてヤギの乳をしぼった。思ったより簡単だった。受け皿の中にみるみると新鮮なヤギのミルクがたまっていく。
「一口飲んでみろ」というジョナサンの言葉に従って、受け皿から直接飲んだ。
草の良い香りがしてとてもおいしい。後をついてきた猫のテオフィロが近寄ってきた。
「子猫にもすこしやったらどうだ?」とジョナサンが笑顔で言った。
テオフィロは小皿につがれたミルクを、のどを鳴らしてたいらげた。足のけがはもうほとんど治り、持ち前の勇敢さを取り戻していた。
家畜小屋にいるロバは、笑っているかのように大きな歯をみせてルークにあいさつをした。大きな耳が愉快だ。おじいさんに言われたとおりに新しい麦わらをたっぷりと与えた。
冬場の寒さの厳しい時は、ヤギもロバも居間の中につなぐ時があるという。
「羊がいた時は冬場の家の中は本当に騒がしかったな。ノアの方舟ほどではないがな」といっておじいさんは笑った。残念ながらルークにその意味はまだ分からなかった。しばらくすると男の子が二人、数頭のヤギと羊を連れて道をやってきた。ジョナサンは二匹のヤギを預けると、パンとチーズのかけらをたっぷりと二人に持たせた。二人は嬉しそうに丘を登っていった。
「羊がいた時は冬場の家の中は本当に騒がしかったな。ノアの方舟ほどではないがな」といっておじいさんは笑った。残念ながらルークにその意味はまだ分からなかった。しばらくすると男の子が二人、数頭のヤギと羊を連れて道をやってきた。ジョナサンは二匹のヤギを預けると、パンとチーズのかけらをたっぷりと二人に持たせた。二人は嬉しそうに丘を登っていった。
「大工のジョセフとマリーの子供たちだよ。ジュードとジェイムズだ」とおじいさんは説明した。
「えっ、じゃあ、あの、えーと」名前が思いつかない。「あの『歌うたい』の弟たちなの?」
「そうさ。ジーザスの弟たちだ」
ルークは初めてその名前を耳にした。
ジーザスっていうんだ。
ジーザスか。
夢中でしゃべっていたかと思うと、突然止まって動かなくなったり、人目を忘れたように歌い続けたりする不思議な少年の様子を思い出してなんだかおかしくなった。
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