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家畜の世話が終わると次は鍛冶屋の仕事だ。
「最近は農具の修理の仕事がほとんどだな。新品のものは大きな町の市場で買ったほうが安いからな。家具の装飾金具の需要も多いぞ。昔に比べて皆生活に余裕が出たのか、家の飾りにも気を使うようになってきたからな。俺は小さいものを作るのが得意だからよく注文をうけるのさ。金や銀の細工もできるぞ。トロアスにいたころは結構評判が良かったものさ。俺の得意はこれさ」
ジョナサンは銀の彫り物に金のリンゴがはめ込まれた美しい飾り物を見せた。
「きれいだなぁ…僕も作ってみたいな」
ルークは手にとってしげしげと眺めた。
「やってみるか。だが、三年間ではどこまでいけるか分からんな。始めの一年間は下働きだ。お前は医者になるんだったら、治療用の器具も手作りすると良い。まあ、始めは、鍛冶屋のはさみや小刀でも作ってみるんだな。俺は特に教えないから、俺の仕事を見て覚えるようにしろ。いいな」
「はい」
「今日は俺の火の起こし方を良く見ていろ。炭を無駄にしないやり方だぞ。いいな。午後になったら、井戸に水を汲みに行って、それから火付け用のおがくずや木屑をもらいに大工の家に行くから、お前も来い」
そういってジョナサンは仕事に取りかかった。
仕事場になっている離れの小屋は、レンガ作りの四角い部屋になっている。大きな二つの窓から明るい光が取り込まれていた。窓からロバがのぞいている。壁には鍛冶屋の道具がたくさん掛けられていた。炭置き場の近くにレンガ造りの火床と空気を送るためのふいごが置かれている。部屋の中央には使い込まれた金床と水を張った水盤が置いてある。すべての物が使いやすいようにきちんと整頓されているようだ。一休みの時に使うのだろうか、大きな木製の椅子が窓の近くに置かれていた。
ジョナサンは何かにつけてはルークに話しかける。この様子をナザレの住人が見たらびっくりするに違いない。ジョナサンは無口な男として知られているのだ。
午後になって昼食が済むと、ジョナサンはロバに荷車をつないだ。大きな土器のつぼを二つ、転ばないように綱で固定して積み込んだ。ルークは緊張して、言われるとおりに動いて手伝った。
「牧羊犬みたいだな」とおじいさんは笑った。
ナザレの町の中央を通る道を二人はゆっくりと下っていった。道に沿って小さな四角い家が、初夏の日差しを受けて白く光っているように見えた。どの家の屋上にも日よけの屋根がついた小屋が建てられている。おじいさんの家にもあった。
「仮小屋さ。暑い夏の夜にはあそこで寝るのは最高だよ。来月には『仮小屋の祭り』がある。このあたりの者もほとんどがエルサレムにまで上っていくな。エルサレム中の家の庭や道端に仮小屋を建てて一週間暮らすのさ。指導者モーセによってエジプトの苦役から開放されたことを思い出すために毎年やっているのだ。俺は子供の頃から一番好きな祭りだったな。子どもたちはみんな知り合いの仮小屋を回っては、はしゃぐのさ。収穫の祝いだから食べ物もいっぱいある。食い過ぎちまうがな」とジョナサンは楽しそうに説明した。
すれ違う人々は元気にあいさつしてきた。
「ジョナサン、孫とお散歩か」と老齢の男たちは呼びかけた。若い女たちはルークに関心を示した。
「こんにちは。あなたがルークね。ダイナの子ね。かわいいわね」
驚いたように見つめる人々も多かった。子どもたちの多くはギリシャ人に見えるルークに不思議そうな眼を向けた。
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