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こうして、ひょんなことから知り合った四人は、一匹の重荷を負ったロバと、もう一匹の、足を折った子猫と共に一泊の徒歩の旅を始めた。
目指す場所は、内陸のガリラヤ湖畔の大きな町、カペルナウムだ。山を越えなければならないので、結構たいへんな旅になる。ルークにとっては、ピーターとアンドリューという話好きの二人との旅は、新しい言語を覚えるため格好の時ともなった。目に入るもののすべての名前をルークは飽きることなく、旅の伴侶の二人の兄弟に尋ねた。
ピーターは五つほど年上だが、アンドリューとは同い年だった。二人が歌う歌はダイナもよく知っていて、声を合わせて歌った。ダイナはヘブライ語で話したり歌ったりすることを楽しんでいる。すっかり明るさを取り戻していた。ユダヤ式の衣服を着たダイナはどこから見てもユダヤ人だ。ルークは不思議な気持ちで美しい母を見つめた。
遠くに見えるヘルモン山からの風が汗ばんだ体に心地よい。足を怪我した子猫はルークが肩に下げている籠の中でおとなしくしている。踏み固められた細い道の両側には、ヒヤシンスや水仙の花が咲いていた。紫色の花をつけているアヤメは初めて見る種類のものだ。
「ねえ、ナザレはどんな町なの?」
ルークは一休みの時間にアンドリューに尋ねた。
アンドリューはニヤニヤしながら答えた。
「ナザレの東の丘には『歌うたい』がいるよ」
「『歌うたい』?」
ピーターが話に加わった。
「『歌うたい』さ。男の子だよ。丘の上の『歌うたい』だよ」
ルークには意味が分からなかった。
「あいつはいつも歌ってるよ。ララララー。でも、時々止まるよ。こんな風に」
とアンドリューは空を見上げて口を開けて立ち尽くした。
「大工の息子さ。トントントン、シュッシュッシュッ」
とピーターは一心不乱にやすりをかける仕草を続けた。
ルークには何のことだかますます分からなかった。
ピーターはダイナをまぶしそうに見ながら真顔で言った。
「あいつの母親は美しいよ。あなたみたいに」
ダイナは笑いながら尋ねた。
「ありがとう。その『歌うたい』の少年の母親は何という名前なの?」
「マリーさ」と兄弟二人は同時に大きな声で答えた。
マリー! あのマリーだ。
ダイナの子どものときの記憶がよみがえってきた。毎日の夕方に、ナザレにある井戸で待ち合わせした親友のマりーだ。二人はびっくりするくらい気が合った。たくさん話してたくさん笑った。
マリーはいつでも歌っていた。美しい歌声だった。神への賛美の歌がいつも彼女の口にあった。
『この人にはかなわない』とダイナが思う、唯一の女性だった。見かけの美しさのことではない。聡明さと敬神の深さのことだ。ダイナに恋する少年たちもマリーには一目置いていた。
「マリーには他にも子どもがいるの?」とダイナは尋ねた。
「いるよ。えっと、男の子が全部で三人と、女の子が二人だよ。いつもみんなで歌っているよ。でも『歌うたい』は特別だよ」とアンドリューが答えた。
ああ、マリーに会いたい、ダイナは強く思った。
今の自分の心のすべてを打ち明けたかった。喜びも悲しみも苦い後悔も、神への思いも……
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