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ダイナはゆっくりと考えながら語った。船を追い抜くようにカモメたちがゆうゆうと飛んでいる。
「私はあなたにもユダヤ人の神を信じるようになってほしいの…自分が忘れようとした神様なのに勝手だと思うでしょうけど。でも、いろいろなことがあって考えたの。神様を忘れて生きるなんてできないことだし、そんなことをしてはいけないってね…神様は命を与えてくださった方なのだもの。私たちの神は父親が子どもを愛するように人々を愛してくださる神なのよ。私、ギリシャの神々のことを教えられて思ったわ。こんなにふしだらな神々が本当の神様であるはすがないって。アレックスともよく話し合ったわ。アレックスも迷っていた。『どこかに本当の神がいるはずだ』ってよく言っていたわ」
「僕にも『母さんの神様が本当の神かも知れない』って時々言ってたよ」
「そうね。アレックスは本当にいい人だったわ。もっと生きて一緒に暮らしたかった」
ダイナはしばらく黙っていた。
ルークは立ち上がり、母の肩に手を置いて言った。
「母さん。僕はまだ子どもだけど、父さんの子だからね。父さんの代わりに母さんを守るよ。父さんと約束したんだ。そうするって」
父との最後の会話を思いだした。
「それに僕は父さんが確かめられなかったことを確かめるよ。本当の神様はどこにいるのかっていうことをね。ギリシャの哲学者たちの言うことも本当かどうか知りたいって思っているし。時間がかかると思うけど、いつかきっと本当のことを確かめてみせるよ」
ダイナは心の中で短い祈りをした。
《ありがとうございます、神様》
ダイナは父と母に宛てて手紙を送ったが、ちゃんと届いているかどうかは分からない。自分を許してくれるかどうかも分からない。夫を亡くしてからのダイナの脳裏には、忘れようとしていた昔の日々の情景が、吹き消すことのできない炎のように浮かんできた。ふるさとの井戸端での友との語らい…毎年エルサレムで行われる祭りへ向う時の楽しかった旅…安息日の会堂での集会が終わった後に皆で歌ったりダンスをしたりして笑いあったこと…幼いながらも神エホバを信じて祈っていたこと… 帰りたい、どんな罰でも受けよう… 帰ろう… 母さん、父さん… 会いたい…
ダイナは父母への手紙の中で「ルツ記」の言葉を引用した。
異国の女ルツは、イスラエル人の夫を失くした時、義理の母ナオミに言う。
「汝の民はわが民 汝の神はわが神なり」 (ルツ記第1章16節)
ルツが求めた神はダイナの幼い時からの神だった。ダイナが忘れようとした神だった。
元気でおられますか? 私は、父さんと母さんの神エホバのもとに帰ります。私を許してくださるでしょうか? どうぞ私と息子のルークを近くにおいてください。異国の地をさまよっていましたが、私は、私の神のもとに帰ります。
ダイナの本心だった。
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